慌ただしい師走です。お元気でお過ごしですか?“嵐の前の静けさ”とでもいうのでしょうか。数週間前、年末の嵐に飲み込まれる前に、心静まる風流な催しに出席してきました。奈良の元興寺(世界遺産)で開かれた「お香の会」です。
「聞香」ってご存じでしょうか。香りのする木=香木を焚いて、その種類を言い当てる遊びです。中世から貴族の間で広まり現代まで伝えられてきました。香木というのはとても神秘的な自然の産物です。普通、木は折れて地面に落ちるとそのまま土に還ります。でも木に傷がつき樹液が出て木の表面をカバーなどした場合、稀に土に還らず地面の中で長い年月(数百年)ねかされることがあります。その間に芳香物質が樹の中にできて香りのする木になるそうです。主に東南アジアの森で発見され、例えば“伽羅(キャラ)”という種類の香木は、1g=1万円もの価値があるほど貴重なものです。
この聞香の催しを開いたのは、大阪府堺市で聞香教室を開いている林みどりさんのグループです。実は私、前回大阪局で勤務していた頃、林先生の聞香教室に通っていました(覚えの悪い生徒でしたが・・・)。そのご縁で今回は出席させていただきました。
久しぶりに訪れた奈良は、木々が紅葉の最後のピークを迎えて鮮やかに染まっていました。
元興寺の前進のお寺には、飛鳥時代に天智天皇が香木を納めたと伝えられています。そんな
由緒あるお寺での久しぶりの聞香に“鼻”が鈍っていないどうかドキドキしながらお座敷に入ると、聞香の初心者からベテランまで十数人がいらっしゃいました。
今回の聞香では、まず3種類の香木が焚かれ、それぞれの香りを聞いて特徴を記憶します(聞香では香りは“嗅ぐ”ではなく”聞く”といいます)。そして二回目はその3種類の順番を入れ替えて聞き、順番がどう変わったか当てるという内容になっていました。
どの香木も、灰と炭団の入った香炉で焚かれます。参加者は香炉が回ってくると、それを手に取って、香りを肺の奥まで深く深く吸い込み、甘い、辛い、苦い、酸っぱいなど特徴をメモしました。香りも“味”で表現するんですよ!味わうものなのです。しかし実際は、どの香りも違いが微妙なので、感覚をかなり研ぎ澄ませて集中させることが求められます。私も、普段は使っていない細かい感覚神経までがフル稼働しているのを感じながら必死に香りを聞きました。どれもいい香りなのですが・・・頭はチンプンカンプンです。
そんな中、奇跡がおきました!全く自信なかったのに全問正解!運を使い果たしたかしら~とびっくり。そしてその事よりも、良い香りをいくつも聞いている内に心が静まり、リラックスしている自分に気づきました。時間がいつもより少しだけゆっくり流れているように感じられて、いい余韻が残りました。香りを聞いて、味わって、遊んで楽しむ。神秘的な香木を生活に取り入れ楽しんでいた中世の貴族はなんて優雅だったのでしょうね。
夜は、奈良のブランド牛の大和牛と伝統の大和野菜を食べにいきました。聞香で感覚が研ぎ澄まされたせいか、お料理の五味がよく分かり一層深く味わうことができ、幸せな気分になりました。多忙な日々の中でも、真にじっくり味わい楽しむ喜び。大切な感覚を呼び覚ましてくれた、古都の香りの催しでした。
山本美希
やまもとみき