きょうの料理は、スタジオでゲストに話を聞き、料理を教えてもらうのが一般的です。
料理研究家やシェフの素の顔や個性を引き出すには、どのようなことを聞けばよいのか。日々考えながら放送に臨んでいます。放送の前や後には、料理のことだけでなく、趣味や家族などについてもお話を伺います。すると、一つのレシピが生み出されるまでのいきさつやゲストの食卓などが思い浮かび、料理についてより興味がわいてきます。
スタジオに留まらず、料理が生み出される「現場」に行きたい。その思いから、私は、料理研究家のお宅やシェフのお店にできるだけ伺いたいと考えるようになりました。
今まで、私は、3人の料理研究家のお宅にお邪魔しました。清水信子さんの几帳面さ、有元葉子さんの格好良さ、牧野直子さんのきめ細かさ。それぞれの方の個性は、キッチンや料理の器具、植物などにも表れていました。
そして今回、初めて、シェフのお店の調理場を訪ねることになりました。フレンチのシェフ、田代和久さんのお店です。プロのこつを教えていただく「プロこつ!クリームシチュー」。2月9日(火)の「きょうの料理」で放送しました。
まず驚いたのは、田代シェフ直筆のメニューです。筆ペンで丁寧に書き上げていきます。生き生きとした温かい「クリームシチュー」の文字。これからおいしい物を作る!という思いを込めて、毎朝メニューを書くのだそうです。現場での発見、まだありました。調理場に入ってすぐの壁に、鏡がかけてあります。食材や料理などを点検するのかと思ったら・・・違いました。シェフが自分自身の表情や身だしなみをチェックしているのです。お客様の前に出る時、顔がこわばっていないか、汗は出ていないか、毎回確認するそうです。顔の表情やメニューの文字一つ一つに気を配る、丁寧な姿勢が伺えました。
そのようなプロ意識の高い田代シェフのクリームシチュー。きっと作るのは難しいのだろうと思っていましたが、シェフは言います。「この作り方だと『失敗しません』」。それもそのはず。ホワイトソースを作る時、ダマになる心配がないのです。普通、ホワイトソースは、バターと小麦粉をいためた温かいルーに、冷たい牛乳を加えます。冷たい液体に温かい素材を溶かす場合溶けにくく、うまくかき混ぜないとダマになりやすいのです。一方、田代さんは、まず、ルーを作ります。バターと小麦粉を混ぜ合わせ、冷蔵庫で冷やし固めてできた「ルー・ブラン」。この冷えたルーを、温かい牛乳に溶かしてホワイトソースを作ります。温かい液体に冷たい素材を溶かすのですぐに溶け、ダマにならないのです。プロのこつというと料理の技やセンスが求められそうですが、素人でも失敗しないこつとは嬉しい限りです。
もう一つのこつは、素材を大切にすること。野菜や鶏肉のおいしさや形はそのままに。素材から出るうまみは上手にいかします。野菜や鶏肉は、鍋からいったん取り出したり戻し入れたりして、彩りやおいしさを残します。野菜と鶏肉のだしが出たスープは、ホワイトソースと合わせて上手に役立てます。鶏肉と野菜の自然な味わい、コクのあるホワイトソースと一体になり、まさに絶品!温かさにあふれた田代シェフの現場でした。
江崎史恵
えざきしえ