北海道洞爺湖サミットが開かれた翌週、会場となったホテルへ。今回のサミットの総料理長を務めた中村勝宏さんを取材するためです。世界の首脳はじめ多くの関係者の食事を3日間にわたって総指揮しました。中村さんは、日本のフランス料理界を代表する料理人のお一人。26歳でフランスに渡り名店で修行ののち現地で無名の店を任されますが、たちまちミシュランで一つ星を獲得。日本人として初の快挙でした。帰国後は東京のホテル総料理長として活躍。伝統的なフランス料理を基本に独創的なアイディアを生かす中村さんは高い評価を得ています。
ホテルの華麗なロビーからいわば裏舞台に入ると、廊下はコンクリートの打ちっ放しだったりしてかなり地味な印象。しかし厨房はピカピカに磨き上げられたステンレスが光を放つ清潔な空間。料理人たちのキビキビした動きに目が釘付けになります。
中村さんには首脳たちの社交ディナーに供された料理を再現していただきました。まず、シャンパンのアペタイザーとして出された「うにのパンシュープリーズ」。利尻島産のうにをクリーム仕立てにして薄くスライスしたパンに塗ったサンド。口に含むとうにの甘みが瞬時にひろがります。まさに北海道の海の幸をひと口で表現する一品。利尻島の漁師さんたちはこのうにを守るために植林を続けています。山の木々の養分が海に流れ込み海草を育てプランクトンを増やすからです。
また、「かにのビスク・カプチーノ風」では特産の毛がにをまるごと使います。ビスクとはフランス料理で甲殻類を使った濃厚なポタージュスープのこと。甲羅もつぶしてエキスを抽出。毛がにも資源を守るための取り組みがあり、獲ってもいい毛ガニは雄だけ。しかも甲羅の長さは8cm以上。資源を将来に残す漁業が行われているんですね。その貴重な食材が煮える鍋を中村さんは愛おしそうにみつめながら調理していきました。メイン・ディッシュは「白糠産乳のみ子羊背肉のポワレ・香草風と子羊鞍下肉のロースト・セップと黒トリュフ風味、子羊のジュと松の実オイルのエマルジョンソース」というまるで寿限無のような長い料理名。やはり北海道の大地の自然が育んだ食材です。
今回のサミットのテーマでもある地球環境や食糧危機の課題について、中村さんの料理からメッセージを感じました。確かな自然が豊かな食材を約束するが、そこに人間の努力がなくてはならない。地球上には飢餓に苦しむ人々もいます。サミットの料理を贅沢!と言うことは簡単です。でも人類が歴史のなかで培ってきた食文化を大切にすることは、その恵みを育む自然環境を守っていくことにつながるようにも思います。
後藤 繁榮
ごとうしげよし