「きょうの料理」でもおなじみの柳原一成さんから招待状をいただきました。料理教室が都心の再開発のため移転し新しい建物が完成したのです。そのお披露目のお誘いでした。でも招待状を拝見すると「新教室の茶室にて粗餐差し上げたく存じます」とあります。午前11時寄付、11時半席入とよくわからないことも。柳原さんは江戸懐石近茶流の家元。茶の湯のスタイル?とは思ったものの深くは考えず当日を迎えました。
ビルが立ち並ぶ地域に4階建ての落ち着いた建物。モダンな玄関には何とわらじが。靴をわらじに履き替え、庭のつくばいで手を洗い口をゆすぎ、にじり口から頭をぶつけないように茶室に入りました。実はこんな経験初めて。でも、正客(しょうきゃく)と呼ばれる先達の作法に従えばよいと聞き、内心「ほっ」。お茶の作法を教授する広い茶室は、椅子に座ってお点前を拝見できるつくりで、さらに「ほっ」。正座だったら10分ぐらいでギブアップだったでしょう。
最初に運ばれてきた折敷(おしき)には、ごはん、梅型の生麩が入った白味噌仕立ての汁、鯛とさよりの刺身。そして杯にお酒を注いでくださいました。その後も、茶懐石のスタイルで数々の季節の料理を器とともに味わうひとときを楽しみました。あとで知ったのですが、これは「正午の茶事(ちゃじ)」という茶会のひとつだったのです。茶の湯は世界に誇れる日本の文化ですが、茶事はちゃじ?ちゃごと?と辞書をひもとくほどの己の情けなさでした。
懐石料理は日本料理の礎なのだなあと改めて学びつつ、柳原先生ご夫妻と長男・尚之さんの「もてなしの心」に感激したひとときでもありました。私はその日ラジオの生放送があり2時までに放送センターに行く予定でした。その番組をご存知の先生は、私の退出の時間を逆算して料理を出してくださったのです。当日遅れて到着した人もいて予定時間を押して始まったのに、です。さらに食事の途中でお猪口が出てきて注いでもらったのが何とサイダー。「お仕事がありますからお酒のつもりでね」。もてなしとは、その客をいかに理解しているかで決まるのですね。
蛇足ですが、その日私が持参したおみやげをご覧ください。近所の花屋さんにつくってもらったもの。「お重に彩りの料理を詰めたイメージで」と注文。若きフローリストの後上さんは美味しそうに飛び出す料理を見事に表現してくれました。柳原料理教室の玄関に飾られました。
後藤 繁榮
ごとうしげよし